大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和28年(オ)262号 判決

茨城県結城郡江川村大字大木三七四番地

上告人

福田伊勢三郎

右訴訟代理人弁護士

倉金熊次郎

同所三六八番地の二

被上告人

浜野寅一

右当事者間の土地取戻請求事件について、東京高等裁判所が昭和二八年二月二〇日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

"

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨第一点は、原審において本件請求原因の変更を許容した原判決の理由不備又は齟齬を主張するものであり(そして、控訴審においても民訴三七八条、二三二条の規定により請求又は請求の原因を変更することができるものであつて、この点に関する原判決の判示はこれを正当として是認することができる。なお、民事判例集七巻九号九一八頁以下当裁判所第二小法廷判決参照)、同第二点は、単なる採証法則違背の主張であつて、すべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

昭和二八年(オ)第二六二号

上告人 福田伊勢三郎

被上告人 浜野寅一

上告代理人倉金熊次郎の上告理由

第一点 原判決は理由不備の違法があるから破毀せらるべきものと信じます。

一、原判決は訴原因の変更を認めながらこれに反する判示理由を以つて上告人の異議を排せられたるは理由不備又は齟齬の違法を免れないと信じます。

蓋し原審は判示理由の前段に於て「当審に於ける控訴人の請求原因は請求原因の変更たるを免れない。」と判示しながら此の変更は請求の基礎をも変更したものでないとは認め難い。

更に「原審(第一審)における口頭弁論は昭和二十七年五月二十六日午前十一時の口頭弁論期日において終結されたのであるが控訴人は右期日前に於て当審に於ける前示請求原因を附加的に主張する旨記載した同年四月二十五日附準備書面を提出しているのであると判示されて居るが訴の原因変更に付ては上告人は原審に於て被上告人が第一審に於て農地買収に依る売渡処分に因つて取得した所有権を主張して土地の返還を求むる」主張と原審に於て賃借権を主張して耕作権に基く土地の引渡を求め所有権に基く請求を全然撤回することは請求権成立の法律関係の成立事実の変更であつて上告人の此の異議申立に基き請求原因の変更を認定されたのである。

被上告人が「昭和十六年二月借受け耕作して居た。」との点は被上告人が第一審に於ける農地買収に因る売渡を受けた前提事情の主張であつて「耕作権」の存在を主張しての土地取戻請求の訴ではないことは第一審判決理由の明にして居る処である。

然るを請求原因其のものとの認定の下に請求の基礎に変更がないとせられたるは原因変更を認めた点と矛盾し理由齟齬たるを免れない。

況んや、第一審の口頭弁論終結前たる二十七年四月二十五日付で耕作権を附加し主張して居る準備書面が提出されて居るし、立証として甲第五号証の一乃至五を提出して立証して居ると判示せらるゝに至つては許すべからざる違法ありと云はねばならないのであります。

第一審に於て原審判示準備書面の提出されある事は認められますが之は陳述がないのであります。若し陳述ありとすれば上告人は原審同様の異議申立を為すべきでありますが陳述なかりしため之れが異議申立をしなかつたのであります。

更に立証として甲第五号証の一乃至五を提出立証して居ると判示せらるゝも許すべからざる原因変更に対する「主張事実の立証」ありとしても之れに基き本案事実の認定は許すべからざる判決と云わねばならないのであります。

論旨を俟つまでもなく「原因変更」の許されざる訴訟上の理由は「訴訟審理上根本的な変更を生ぜしめるのみならず被告たる上告人に対し攻防上著しい障碍を与ふる結果を惹起せしめるものであるからこそ許されざるものと信ずるのであります。

況んや第一審判決後は仮りに相手方の同意あるも第二審に於ては訴の変更は許されざるものと信ずるのであります。

然るに原審は原因変更の異議申立あり訴原因の変更を認めながら変更事実の主張を認定して上告人の申出を排斥されたるは理由不備、少くとも理由齟齬の違法ありと云わねばなりませんから破毀を免れないと信じます。

二、原判決は採証法則違背の違法があるから破毀を免れないものと信じます。

更に原審は原因変更に基く主張事実の認定に於て上告人が甲第五号証の一乃至五の書証の成立を直に認めたことを取り上げて甲第一号証、甲第五号証各号を信憑力ある証拠として採証し耕作権が被上告人にありと認定して居るけれども上告人が原審に於て甲第五号証の一乃至五の成立を認めた所以は訴訟記録を為す調書であるが故に其の成立のみを認めたけれどもその調書に記載されている立証事実は否認するのみならず乙号証の「公文書」に依り何れも「偽証」である旨の抗弁をして居るのであります。(乙各号証、殊に乙第五号証、乙第六号証参照。)

原審の判決たる上告人、被上告人間の曾ての訴訟事件である甲第一号証に依つて耕作権が被上告人にありとする原審判決(二十五年(ネ)第二六六号耕作権存在確認事件)が甲第五号証各号に因る証人の証言により上告人敗訴の判決が為されたことは明であるが之等の証人が偽証をなして居るもので、日農(共産系)農民組合員たる被上告人のために本件農地を奪還すべく事実を捏造して為したる偽証であつて之等証人中には農民組合の組合長渡辺啓作外組合幹部が何れも農地委員会委員であり或は共産系の小作官として横暴を極めて遂に二十五年六月其の職を追はれた証人(当時は県農地課)の小作官の職にあつた稲毛武夫等当時公務員たりし者の証言であつたため措信されたるものと思料するが上告人が之れを覆すべく原審に提出した公文書中「乙第三、第四、第五号証」の如き公文書が交付申請を拒否されて下付されなかつたのは村農地委員会も村政理事者も皆日農下農民組合幹部によつて占められて居り反対立証が出来ず遂に敗訴したものである。

然るに其の後農政機関の改選に当り各種委員より農民組合の幹部は全部落選し、中正公平なる委員又は理事者が選任されたので茲に初めて上告人の「事実証明」の公文書下付申請が容れられて真正なる事実の証明書の下付を受けたのであるが其の時は原審の二十五年(ネ)第二六六号事件は判決後であつて間に合はなかつたのである。(最高裁判所二十七年(ネ)第三四二号耕作権確認上告事件)

上告人が敗訴せし原審二十五年(ネ)第二六六号事件の基礎的判決理由となつた点は被上告人及び原審採証の渡辺啓作外各証人の証言による供述により

(1) 任意返地したのは本件土地でなく松山下一反六畝の田である

(2) 本件金井戸田一反三畝二歩は不法取上げで「告訴を為した結果上告人は其の非を認め損害補償を約して示談となつたから告訴は取下げた。」

との二点が上告人敗訴の骨子事であるのであるが此の二事実は前陳の如く何れも偽証の証言であつて本件金井戸の田一反三畝二歩が昭和二十二年以来上告人が耕作し上告人が飯米を挙げて供出米にして爾来供出の割当も供米完了も果して来て居るのである。(乙第二号証の一以下参照)

故に右(1)、(2)の二つの事実が虚構であることが公文書により反証されれば当然上告人勝訴すべかりしであつたが村農政機関の不法な処置により当時之れが立証が出来なかつたのであるが原審の判決(二十五年(ネ)二六六号事件の判決後)之れを覆すべき真正に成立せる公文書により前述二つの事実は何れも虚構の事実であることが証明されたので本件では之れを提出し(乙第五号証、同第六号証、記録一七〇丁及一七一丁参照。)

(1)の松山下の田は昭和二十一年以来現在も被上告人浜野が賃借耕作して居る事実により昭和二十二年四月任意に返地したとの各証人の証言の偽りであること

(2)の告訴は示談取下げでなく諭示取下げであること

即ち「上告人が不法取上げを認めて損害補償を約したので示談取下げ」となつたのではなく、同告訴事件に提出した上申書通り「浜野寅一」の承諾を得て取上げたが其の取上げに付ては「村農地委員会の承認は得てない」との上申書の通り返地につき浜野の承諾があつたことは真正なる事実である。

然して昭和二十二年十二月二十六日法律第二四〇号農地調整法一部(同法第九条中)以前たる本件農地の承諾による取上げは同法違反とはならないからこそ水戸地方検察庁下妻支部は告訴人たる浜野寅一に諭示して告訴取下げを命じ之れに上告人が連署して取下書を提出して居るのである。(乙第六号証参照)

由来被上告人村たる江川村農民組合は共産系日農に属する組合で農地改革の当初に於ては農地買収計画機関たる農地委員会委員は委員長以下全員殆んどが組合幹部で占められ(僅に地主委員のみ反対の地位にあつた)、旧来の地主は裸体になれ、農地は小作人に奪取すると云うスローガンの下に強行した農村で本件田地の如きも昭和二十一年十月中返地され二十二年度より上告人が引続き耕作し居るにも拘らず二十三年度は水稲半分、二十四年度は夜間多数組合員の手によつて全部刈取られ盗取されてしまつて居るのであります。

故に昭和二十四年度の供米の如きは上告人は飯米と他より買入れて供出を為して居るのであります。

上告人が耕作の割当、供出完了を為して居るのは昭和二十二年度よりでありますが、仮りに(1)、(2)の主張事実があつたとして之れを健全なる社会観念よりする時は本件農地は被上告人の占有下になく上告人の占有下にあるものと認定さるべきが社会通念に合致するものと信ずるのであります。(記録二〇七丁乙第八号証参照)

況んや本件被上告人は農地改革による標準農家一町五反歩以上の耕作農民でありながら昭和二十三年以来一粒の米さえ供出せず全部未完了であるばかりでなく上告人の水稲一反三畝二歩の作物全部を盗取した二十四年度の如きは割当さえさせないのである。(食糧調整委員も二十五年改選は組合幹部であるため)(乙第七号証参照)

耕作農民唯一の義務は食糧増産に精進し国家要請たる割当供出を忠実に果すことと信ずるのであります。

然るに此の農民最大の義務を全く果さず農地のみを奪取するが如きは社会正義の許さざる処と謂わねばなりません。

上告人の本件に対する切なる願意は原審に於ける昭和二十七年一月十日付準備書面で陳述した通りであります。(記録一六二丁以下準備書面参照)

故に原審は先に為したる証人の偽証による誤判を卒直に認められて先入観を去り乙第二号証以下各公文書の真正を認められ之れに証拠力を認められて上告人抗弁事実を認定せらるべきに其の採証を誤りたるは厳正なる証拠法則を侵したる違法の判決にして破毀を免れないものと信ずるものであります。

以上

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